Happy end but・・・・



あの日、都合の良い夢だと思った温もりは消えることはなく、今も私の側にある・・・・

















『納得いきません!!!』

特大の鐘を、これまた特大のハンマーでぶっ叩いたような音量の声がロンドンの路地裏に響き渡った。

とはいっても、普通の人間に聞こえる『声』ではない。

実際、今家から出てきたばかりの二人の人間は気づいた風もなく ―― 否、もしかしたら一人は気が付いたかも知れないが無視した ―― 仲むつまじそうな様子で言葉を交わしている。

もしこの『声』が聞こえる者が近くにいたとしたら、その人は二人の側にふよふよと漂う不思議な光を見ただろう。

よく目をこらせば小さな人の形にも見えたかも知れない。

『・・・・あー、まあ、わからねえでもないな。』

先ほど絶叫した光 ―― かつてエミリーと呼ばれていた精霊の近くで光が点滅した。

それはその光が人型であったなら、きっと呆れているであろうと容易に想像させる。

―― というわけで、描写の都合上、以下人型にてお送りしたい。

『わからないでもない!?』

きっとにらみ据えるようにエミリーが点滅した光 ―― ウィルを振り返る。

その迫力に怯んだようにウィルは言った。

『な、なんだよ。そういうことじゃねえのか?』

『わからなくない、なんて生やさしいものではありません!!断固として納得いかないんですっっ!!』

ぐっと拳を握って言うエミリーにウィルは2,3歩引いた。

『いや、まあ、なあ。』

曖昧に誤魔化そうとして助けを求めるように視線を彷徨わせたウィルは仲間の中でも最も穏やかな気質を持つジルに目をとめる。

『・・・・おい、ジル。なんとかしろよ。』

『ん?』

『ん、じゃねえよ!あの能面、ほっとくのかよ!』

『・・・・いいんじゃないかな。』

『は?』

返ってきた返答の意外さに思わずぽかんっとするウィルにジルはそれはそれは美しい笑みを向けた。

『ちょっとぐらいエミリーに暴走してもらうぐらいでちょうどいいんじゃないかな。―― 私も全然納得いかないしね。』

『・・・・・・・・・お前もかよ』

後半の明らかに本音であろうと思われる部分に込められた気迫にウィルはガクッと肩を落とした。

『そりゃ、まあそうでしょ。』

『ホブ、お前は黙ってろ。』

『えー!?僕だって言いたいって。納得できないー!』

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

『・・・・ジャック、頼むからその無言で同意を示すのを止めてくれ。』

はああ、とため息をつくウィルの肩に顎を乗せるようにしてルディが言った。

『じゃあ、ウィルは納得できるわけ?あれ。』

そう言われて指し示された先には、さっき家から出てきた二人 ―― ハンナとイグニスがいた。

さっき鞄と一緒に転びそうになったハンナにイグニスが何か説教をしていたらしい。

ハンナがちょっと冴えない顔をしたかと思えば、ぱっと頬に赤みが差す。

―― その表情(かお)のなんと美しいことか。

『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』

『ウィルー?眉間に皺よってる。』

『うるせ』

『まあねー。僕はともかくみんなは別に解放されたかったわけじゃないのにされちゃったんだもんね。』

ルディの言葉に他の4人は一様に黙り込む。

確かにあの時、ハンナが解放を願ったから。

命令だという言葉よりも、あの必死に訴えかける瞳に誰もが逆らえなかった。

『・・・・しょうがねえだろ。あいつが決めたんだ。』

『私はお側にいたかったのに、あの銀色根暗人形のためにハンナ様が本気で願っていらっしゃったから・・・・』

『イグニスがハンナを殺すとは思えなかったしね。』

『・・・・人形師への興味はまだまだこれからだったというのに。』

彼女が望んだから、諦めた。

そればっかりはあの時してしまった自分たちの選択で。

一様に目を伏せた4人の横で唯一この中で解放を望んだルディはあっけらかんとした声で4人にとどめを刺した。

『そうしたら、諸悪の根元だけちゃっかり彼女に選ばれて毎日幸せ垂れ流しで生活している、と。』

ぴしっ。

空気が水であったなら瞬間で凍り付いたであろう。

それだけ思い切り ―― 図星だったりするわけで。

『・・・・・・・・・・やっぱ、なあ?』

望んだのは、彼女の幸せ。

『・・・・・・・・・・ええ、やっぱり』

望んだのは、彼女の笑顔。

『・・・・・・・・・・ハンナには悪いけれど』

イグニスの隣でハンナはそれはそれは幸せそうだけれど。

『・・・・・・・・・・同感だ』

ちょっとばかり、納得がいかないのも事実なわけで。

―― 視線を降ろせば、ちょうどイグニスの耳元にハンナが何か囁いた所だったらしく、イグニスがさっと赤くなる。

『『『『・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・』』』』

『うわ〜、イグニスってああいうキャラだったんだ。知らなかったよ。』

呑気なルディの声に、4人はぐっと拳を握った。

そして剣呑に交わされる視線にあふれかえる共通の思いは。

『・・・・がんばれ。イグニス。』

4人よ横目にルディはちょっと引きつった笑顔で目下、幸せにどっぷり浸かっている元解放の執行者にエールを送ったのだった。
























                                           〜 END 〜















― あとがき ―
イグニス・エピローグを見ながら一番考えていたこと(笑)
私がエミリーなら荒れ狂うね(笑)